『僕のサーマルハンティング サーマル、つかまえたっ!』


PARA WORLD 2003 April vol.138
僕のサーマルハンティング サーマル、つかまえたっ!第32回に出させていただきました。


 ふと目が覚めた。目覚まし鳴ったのかなぁ?やばい遅刻だ!いやいや、今日は休日!仕事をする日は、目覚ましが鳴っても起きないのに、休日は目覚ましがなる前に起きる事ができる。こればかりは本当に不思議だ。ベットから降り窓越しに空を見る、予報どうりの雲ひとつ無い青空だ。今日は長丁場になりそう!?しっかりと朝食を取り、早々テイクオフ上がる。
 

 南東方向の遥か彼方から、気持ちいいほど積雲が湧いてくるのが見える。そしてその積雲たちは、見る見るうちにテイクオフ前の盆地ににも湧いてきている。思ったより、状況は早く良くなっているようだ。
そよそよと東テイクオフに風が入っていたのに、時として無風になったり、ひどい時はフォローになるタイミングも出てきた。テイクオフ前方で、強めのサーマルが上がっている事が容易に分かった。
 ラインチェックを済ませたグライダーをテイクオフエリアへ持ってゆき、広げようとすると、見知らぬ国の見知らぬパイロット達が手伝ってくれる。ちょと申し訳なく、そして凄く嬉しい。Thankyou!と挨拶すると、小さく微笑んでくれる。
 レッグよし、チェストよし、小さく声を出しハーネスの各ベルトを確認した。サングラス越しに空を見上げると、雲は十分発達している。と同時にテイクオフにブローが入ってきた。左手に束ねたAライザーを、そっと手前に引いてやる。紅い僕のグライダーは、それに呼応するかのように目を覚ます。風に正対したグライダーは、思いのほか綺麗に、そして水平に頭上に上がってきた。前に振り返えり前傾姿勢を保ったままブレイクコードを、少し緩めてやる、グライダーが前に出だすと同時に加速。
 どんどん地面がどんどん遠くなって行く。よしテイクオフは上手くいった。なんて自己満足に浸っている暇はない。バリオは鈍い音をたてシンクの中を飛んでいることを知らせくる。高度は見る見るうちに無くなってゆく。躊躇することなく前へ出す。
山側でシンクという事は、グランドサーマルは活発なはず。こらえながらランディング方向へ。数十秒後それまでのシンクが嘘だったかのように、グライダーはピッチアップ!よし!高度が低い位置では、小さくショット気味にサーマルが上がっているようだ。ブレイクコードは強めに引き、深くバンクをかける。サーマルを外さないように、コアへコアへ切れ込んでいくイメージで、センターリングする。イメージは良いのだが、たまにロストしたり・・・いやいやロストではなく、外したりしながら、少しずつ上昇してゆく。風の方向が一定ではなく、高度によって、サーマルの流れる方向が異なっている。
サージ法を使いながら何とかサーマルにしがみつく、気がつくと辺りは、だんだん白けて来ていて、何とか雲底に到達。高度2600m。
 スタートを切る事を、無線でテイクオフに連絡し、グライド開始。雲底についてしまうと他の雲の状況がわかりにくい。そんな時は地面に映る雲の影を見ながら、進むべき方向を決めて行く。
一旦雲底を離れるとやはりシンクが強い。風下の一番近い発達中の雲を目指しアクセルを踏む。次々と他のパイロットからトランジットに入るとの連絡が無線から入る、皆順調のようだ心強い。
 約30km地点小さな町の上空を越え、1グライドした後、前方は雲が全く無く、コマを進める事に躊躇してしまった。少し状況のいい場所で待とうとしたのだが、意外に衰退の早い雲は、高度を維持させてくれるほど寛容ではではなく、早く前へ出ろと言わんばかりだ。
エーイどうにでもなれ!と思いながら、グライダーを北へ向けた。対地スピードはそれほど元気が良くない。あまり効率の良いグライドが出来ていないまま高度はロスするばかり、いよいよ残り高度が3ケタになった。高度のあるううちに無線で今の状況報告。一旦ランディングしてしまうと、なかなか無線が届かない事が多いからだ。この情報を聞きながら回収車が並走してくれている。
 耕している茶色の(より色の濃い)畑を狙う。畑を通り越したと同時に、サーマルゲット。助かった。穏やかに上がるサーマルの中は、本当に幸せ。さほど強くないサーマルは、翼をフッラットに、投影面積を有効に使うように旋回させる。ウエイトシフトをあまりさせず、外翼のブレーク操作で、ピッチングを押さえるように、そして穏やかに雲底まで運んでくれる。ありがとー(涙)。
ここまで、雲底高度があると、やはり激しいほどの温度差がある。一旦ランディングしてしまうと、灼熱地獄、雲底は文字どうり天国だ。しかし、クラウドストリートに乗った時など、長くグライド出来た時はやはり、指先などが冷えてきて、感覚が鈍ってくる。
高度と言う名の代償を払う変わりに、距離という名のご褒美を貰う、やはりご褒美は多い方がいいに決まっている。
 回収道路の上を飛ぶ今は、例え降りてしまっても、すぐに回収車に拾ってもらえるので、さほど問題はなさそうだ。この道路の左右は丘陵地になっており、即ち道路が一番低い谷の底を走っている。その谷は北上すると共に狭くなってゆき、前方で関のようになっている。そこを狙いグライドさせる。その関に差し掛かると、案の定バリオが鳴り出した。谷の中を吹く風が、その関にぶつかり、サーマルのトリガーになっていたようだ。でもまだ油断は出来ない、もう1サーマル乗り継がなければ、前方に見える小高い尾根の続く上空に出来ているクラウドストリートに到達できない。グライドパスを確認し、ランディングを確保して・・・って、どこもかしこも牧草地。ランディングは問題なし。雲の無い所はやはり、サーマル源をさがす手掛りが少ない。前方の小高い丘の上に目標を定める。次のサーマルのトリガーになっていればいいのだが・・・。ちょうどそこを通過する頃、対地高度が少なくなって来た。シンクが終わり、再びグライダーはピッチアップ。ライザーを通してカラビナがハーネスを持ち上げる。持ち上げるハーネスは、僕のお尻を押し、腰や背中を圧迫する。体に縦のGがかかる頃、その感覚は正解で〜す。というかのようにバリオの音が鳴る。ようやく、尾根沿いに発達するクラウドストリートに到着、前半に元気が無かった対地スピードも、今は70km/hを越えている。フォローを背負い、効率よく距離が伸びてゆく。
太陽は傾き、日射は明らかに弱くなっているのにサーマルのパワーはまだ衰えていない。

 いくつ町を越えたのだろう、GPSの画面を切り替え、テイクオフからの距離を確認すると、もう少しで、200kmだ、今までそんな経験の無い僕は少々興奮した。夕方、穏やかに上がるサーマルに再び乗り、そしてとうとうファイナルグライドに入る。回収道路沿いの、やはり広大な牧草地にランディングする事を決めた。グライダーを南に向け、ゆっくりと、そして深く左右のブレークコードを引いた。久しぶりに牧草を踏む足は、少々ふらつきぎみで、少し笑えた。GPSは200kmを少し越えたところで、止まっていた。
ランディングした事を無線で連絡。回収車がそんなに離れていないせいか、難なく通じた。慌てることなくグライダーをたたみ、ぼーと夕日を見ていると、回収車が到着。
 回収車のドライバーは、ナタリーという名の可愛いフランス人だ。やはりパイロットである彼女は、ランディングは大丈夫だった?と聞きながら手を振る。No Problemと答えグライダーを車へ積み、そそくさと車の中へ乗り込んだ。冷えたビールを手渡され、無事皆降りたという事で、同じ北を目指したパイロット同士で乾杯!。
車から伝わる振動は、妙に心地よく、2本目のビールを飲み終えたところで、穏やかに睡眠に落ちてゆくのがわかった。
 
  ・・・?・・・?次の瞬間、体を揺り動かされ、目が覚めた。ここは何処だ?自分の部屋か?違う。確か昨日10時間ばかり、飛行機に乗りオーストラリアへ着いたはず。ベットから降り窓越しに外を見ると、満々と水を湛えたプールが朝日に照らされキラキラと光っている。間違えなくここは、オーストラリアだ。少々パ二クッタ。
今の状況がわかると同時に、夢に消えた200kmに、少々落胆した。
 朝飯行きましょうと促され、ダイニングへ。今日は長丁場になりそうなので、しっかり朝食食べておいてくださいネという注意を受ける。
身支度を整え、早々テイクオフに上がる。南東方向の遥か彼方から、気持ちいいほど積雲が湧いてくる。それを見ていると落胆していた気持ちがどこかに吹っ飛んでいった。
よし、せっかくオーストラリアまで来たんだ、200kmオーバーのフライトをしてやる!。
心に誓ったその時、爽やかな乾いた風が、前髪を揺らした。

 今年も、昨年に引き続き、オーストラリア、マニラに行って来ました。サーマルの出方は教科書どうりといった感じで、ランディングに困る事も無く、本当にリスクが少なくクロスカントリーフライトの出来るところです。
今年は運悪く、意外とトリッキーな状況で、上手く距離を出すことは、出来ませんでしたが、そこは勿論、運もつき物。運によって大きく結果が変わるもの。何が起こるか分からない。だからクロカンフライトが辞められないのかも知れません。
今回は新しい発見が多く、本当にいろいろ勉強に成りました。
 上手くサーマルを捕まえ、知らない、見たことの無い景色も見ながらのフライトは本当に楽しいです。いろいろなサーマルを、いろいろな情報から探り、少しずつ前に進む(時には、後ろに戻らなければならなかったり・・・)。客観的に見れば地味な作業の繰り返しですが、自己新記録の出た時はものすごく興奮するものですし、そうでなくても、与えられた情況の中、自分の持てる全ての力を出し、でた距離がその結果だと思えば、十分に満足出来るし、またランディングした後、きっと美味しいお酒が飲める事でしょう。

 


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